大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和52年(行ウ)30号 判決

原告

村上豊

(ほか四二名)

原告ら訴訟代理人弁護士

馬淵顕

阿波弘夫

桂秀次郎

本田兆司

被告

広島市長 平岡敬

右訴訟代理人弁護士

宗政美三

右指定代理人

富岡淳

佐下勝義

鈴木雅彦

吉原靖樹

松田幸登

山崎義男

神笠寛治

山崎剛

山本輝昭

理由

一  本案前の主張について

1  本案前の主張1(原告適格)について

(一)  原告番号2ないし4、20ないし23、28の原告らについて

(1) 原告番号2ないし4の原告らが、昭和四四年一〇月一六日、共有していた従前地「二の1(一)ないし(三)」を近藤に売り渡し、その旨の所有権移転登記手続をしたことは各当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被告が、昭和四五年一月九日、近藤らに対し、本件処分を含む換地処分の変更処分を行い、関係人に通知したことが認められる。

法一二九条は、事業施行の継続的運営を可能ならしめるため、目的土地の権利関係について承継があった場合に、従前の手続の効力が承継人にも及ぶものとしたものである。右趣旨によれば、仮換地指定後換地処分前に従前地の譲渡がなされた場合でも、従前地の譲渡人に対してなされ手続の効力は譲受人に及ぶとともに、事業施行者は、その後の手続を全て右譲受人に対して進めていけば足りるものというべきであり、彼は売買当事者間においては漬算金に関する権利義務が譲渡人(売主)に帰属することがあるとしても、事業施行者に対する関係では譲受人(買主)に承継されたと解すべきである。

よって、右従前地を近藤に譲渡した右原告らは、右従前地にかかる清算交付金が自らに帰属することを被告に対して主張できない以上、被告に対して清算金額決定処分(変更に係るもの)の取消しを求めることも許されない。

〔中略〕

(二)  原告番号5、8、23、40、42、43の原告らについて

(1) 〔証拠略〕を総合すると、結城広登は従前地「三の1」及び従前地「三の2」を所有していたが、本件処分前である昭和三五年一月三日に死亡したこと、原告結城ミツヨ(原告番号5)はその妻であり、同中川純子(原告番号8)はその子であるが、本件処分当時、いずれも相続について単純承認をし、その後昭和五九年ころになされた遺産分割協議の結果、換地「三の1」及び換地「三の2」を取得しなかったこと、結城広登の相続人らは、右遺産分割の際に、その清算金交付請求権を分割の対象とはしなかったこと、の各事実が認められる。

清算金交付請求権は、換地の所有権とはあくまで別個の権利であり、また、前記法一二九条の趣旨からすれば、本件処分後に換地について権利変動が生じた場合には同条の適用はないから、被告との関係でも、本件処分後になされた換地の処分には随伴しないと解すべきである(なお、遺産分割の効力は、形式的には相続開始時に遡及して生ずるが、右の解釈においては、実質に着目し、分割協議成立の時点で相続財産を取得したものとみるべきてある。)。

よって、右原告らは、右従前地にかかる清算交付金請求権が自らに帰属することを被告に対して主張できるというべきである。

(2) 〔中略〕

2  本案前の主張2(出訴期間徒過)について

原告番号2、6ないし8、11ないし14、21ないし23、32ないし36の原告ら及びその被承継人が、いずれも、本件処分の通知を受けた後三箇月以内に、広島県知事に対し、本件処分についての不服審査請求を行わなかったことは各当事者間に争いがなく、右原告らの本件訴えの提起が、本件処分に対する不服申立を経由した他の原告らと同じく、昭和五二年七月一八日であったことは当裁判所に顕著である。

清算金交付請求権は、換地処分に伴う土地区画整理事業区域内の土地所有者間の公平を図るための権利であって、その性質は単なる金銭債権に過ぎず、従前地が共有の場合には、各共有者は、従前地についての清算金交付請求権を共有持分の割合に応じて分割債権として取得するとみる余地もある。しかしながら、本件処分は、それぞれの従前地につき、共有者ごとにではなく、一体としてなされていることからすると、共有者の一人の請求によって本件処分が取り消されるならば、他の共有者もそれによって利益を受けることになる。したがって、共有者の一人が不服申立てをした場合、他の共有者において、自らは不服申立てをしたり直ちに取消訴訟を提起することなく、その帰趨を見守っていることは責められるべきことではなく、他の共有者がした不服申立ての結論が出てから自らも取消訴訟を提起することを認めても、何ら行政事件訴訟法が出訴期間の制限を設けた趣旨にもとるものではない。そうすると、共有者の一人が不服申立てをしたときは、これを原告らが主張するように保存行為というかどうか、また、各共有者が清算金交付請求権を分割債権として取得するかどうかはともかく、他の共有者との関係でも、出訴期間は進行しないものと解すべきである。

よって、右原告らの本件処分の取消請求に係る訴えは、全て出訴期間を徒過していないものとして適法であるというべきである。この点に関する被告の主張も失当である。

3  本案前の主張3について

原告らは、被告である広島市長に対して、憲法二九条三項を根拠として、直接に清算交付金の支払いを求める。しかし、広島市長は行政機関であって、清算金の帰属に関する直接の主体とはなり得ない(法一一八条二項)し、右訴えを国ないし広島市に対する訴えと同一視することもできないので、給付請求の被告適格について疑問があるうえ、原告らの右請求は、法所定の行政処分を経ることなく、給付を求めるものであるから、いずれにせよ、原告らの右訴えは全て不適法である。

4  以上によれば、原告番号2及び4の原告らの各清算金額決定処分の取消請求に係る訴え並びに原告番号3の原告の別表1記載の従前地「二の1(一)ないし(三)」に係る換地処分、原告番号20ないし23の原告らの従前地「九の2」に係る換地処分及び原告番号28の原告の従前地「一四の2」及び従前地「一四の3」のうち三谷鋼業株式会社に対する譲渡部分に係る換地処分に伴ってされた各清算金額決定処分の取消請求に係る訴え並びに原告らの被告に対する別紙二請求金額目録記載の金員の支払請求に係る訴えは、いずれも不適法であるから却下を免れない。

以下、その余の訴えについて判断する。

二  本件処分の存在等(請求原因1及び3)について

前記一で指摘した点を除き、原告らが、本件処分当時、それぞれ別表1記載のとおり各従前地を所有し若しくは共有し又は従前地の所有者を承継したこと、被告が、昭和四四年一一月一五日、原告ら又はその被承継人らに対し、本件事業の施行者として、本件換地処分に伴う本件処分を通知したこと、本件処分が昭和四五年一月一〇日に確定したこと、右原告又はその被承継人らが、前期通知を受けた後、広島県知事に対し行政不服審査請求をして三箇月が経過したことは各当事者間に争いがない。

三  被告のした本件処分の適法性(請求原因2)について

1  本件換地処分に至る経緯について、〔証拠略〕を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  本件事業計画の策定について

第二次世界大戦により罹災した全国各都市の復興のため、政府は、昭和二〇年一一月五日、戦後復興院を設置し、さらに、同年一二月三〇日、「戦災地復興計画基本方針」を閣議決定し、戦災復興事業を土地区画整理の手法により国家的事業として実施することとし、特別都市計画法を制定した。

広島市は、終戦前である昭和二〇年八月六日、原爆の投下により、中心部は廃虚と化し、死傷者は多数に上った。終戦後も、疎開者や外地からの引揚者が、瓦礫の山積する焼け跡に、思い思いにバラック等を建てて住み始めるという有り様であった。

そこで、広島市は、健全な市街地の造成を図る見地から、昭和二一年一〇月九日、特別都市計画法一条三項の規定により、戦災復興都市の指定を受け、戦災復興土地区画整理事業を実施することとなり、旧都市計画法三項の規定により、特別都市計画を決定したが、その際、広島復興都市計画土地区画整理区域を西部と東部とに二分し、西部は広島県知事が、東部は被告が施行することとなった。本件事業は右東部の復興土地区画整理事業であり、その内容は、健全な市街地の造成に必要な公園、道路等の公共施設を新設又は拡張すべく、従前地の適宜な減歩によって、必要な公共用地を捻出した上、公共施設を新設等していくものであったが、被告が国の機関たる立場で、事業費の八割を国庫に依存して実施したものであり、また、原爆の被害のため、市職員の不足に加え、筆記用具にも事欠く等、想像を絶する混乱の中で開始されたという特殊事情があった。

(二)  昭和二二年当初の事業計画(換地設計と仮換地指定方法)

被告は、土地区画整理施行地区の告示(昭和二一・一一・一五広島市告示甲第一〇二号)を、次いで、広島特別都市計画事業東部復興土地区画整理施行規程の告示(昭和二二・八・二〇広島市告示甲第七四号)を、さらに、広島市東部復興土地区画整理設計書の告示(昭和二二・一〇・三一広島市告示甲第一〇九号)をし、公共用地の捻出のために必要な滅歩をなす予定にしていた。その内容は別表3のとおりである。

被告は、市民の要請に応えて、早期の戦災復興を遂げるべく、昭和二二年八月から同二四年三月までの間に、市街地の中心部から逐次仮換地の発表をするととともに、逐次仮換地を指定していった。指定にあたっては、本件事業の依拠する特別都市計画法、土地区画整理法には、換地設計の方法について照応、公平の原則等一般的な規定はあるものの、具体的な規定がないため、被告は、右方法については事業施行者の合理的裁量に委ねられていると判断し、必要な公共用地の捻出のため、従前地各筆に公平かつ合理的に負担させるべき地積をなるべく簡便に算定できる方法によって早期の事業完成を図ろうと考え、本件事業の換地準則(乙第一号証)を定めた。その内容は、従前地の地積に旧道地積のうち従前地の評価の点から従前地地積に加算すべき地積(加算地積)を加えたものから、換地の評価の点からこれに接した道路の新設又は拡張のため換地地積から減歩すべき地積(地先減歩地積)及び右減歩では足りない公共用地の捻出に要する地積を負担させるため減歩すべき地積(共通減歩地積)を控除したものが換地地積となるように、従前地所有者に換地を割り当てる方法(面積式計算方式。以下、被告の採用した換地設計の方式を「面積式換地設計」という。)であった。算式は以下のとおりである。

換地地積=(従前地地積+加算地積)-(地先減歩地積+共通減歩地積)

被告は、従前地所有者に対して指定する仮換地の地積を、なるべく右換地地積に合致するように換地設計を行った。

(三)  事業計画の縮小に伴う未指定地の発生

本件事業は、第二次世界大戦後間もない時期に開始された戦災復興事業を受けて行われたものであるが、当初の戦災復興事業計画は、その後のインフレの激化とこれを防止するために連合国軍総司令部から示された経済安定九原則等の要請から、大幅な変更を余儀なくされた。そこで、政府は、昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」を閣議決定し、同日付で、建設省都市局長から各都道府県知事に宛て、事業費節約のために公園、街路等の公共施設の計画及び施行地区の縮小を求める内容の通達である「戦災復興事業都市計画再検討実施要領」が出された。

しかし、被告としては、事業費を国庫に依存する等の事情からこれに従わざるを得なかったものの、右事業計画の変更を予想していなかったことに加えて、既に換地予定地の発表をする等事業計画を相当に進捗させていたため、その対応に時間を要し、昭和二七年になってようやく広島市における戦災復興事業計画の変更を決定し、昭和三〇年三月三一日、建設大臣により「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理設計変更」が決定され、同日付で広島県知事により「広島市東部復興土地区画整理設計変更」が認可された。さらに、昭和四一年一〇月二〇日、建設省告示第三五一四号で「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理設計変更」が決定され、昭和四二年四月四日広島県指令第六号「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理設計変更」が認可された。その結果、当初予定されていた公園、街路等の公共施設の規模を縮小したことにより、四万二三六五・八五坪のいわゆる未指定地が生じた。

右計画縮小に対して、被告は、一部にあった仮換地未指定ブ口ックについては、道路部分の事業計画の縮小に対応して、地先減歩を縮小した形で仮換地を発表し、仮換地の発表はなされていたが使用収益がなされていなかったブ口ックについては、地先減歩地積相当分を従前地所有者に返還し、その限りで地先減歩地積を減少させ、また、従来の過小宅地及び過大宅地に対する方針を変更して仮換地指定をなしたものの、それ以上の換地設計の変更を行わなかた。その理由は、被告は、原爆投下で廃墟となった市街地に逐次仮換地指定し、昭和二四年三月ころまでには全域において仮換地指定した結果、被災した市民らが次々と建物を建てて住み始め、計画全体の六割に相当する土地の上には建物が建っていたという当時の状況に鑑み、従前の仮換地計画をやり直すのでは、右建物の除去移転を求めることになり、一応、従前地所有者の、被告の除去移転命令に従う旨の同意は取り付けていたものの、本件事業の完成が遅延して早期復興の要請に反するのみならず、市民らに打撃を与え、社会的・経済的影響が甚大であると判断したからである。

(四)  発生した未指定地の処理

そこで、被告は、土地区画整理委員会の意見を聴き(土地区画整理法施行後は土地区画整理審議会の同意を得て)、発生した右未指定地を以下のとおりの方法等で処分することにした。

(1) 保留地の設定

被告は、発生した右未指定地のうち一万三二九九・八五坪を保留地として売却して、その代金を事業費に充当することとした。

なお、保留地の設定に当たっては、評価員の意見を聴いた上、換地及び従前地の双方について、路線価式評価方法により昭和三二年一二月末当時の価格を算定したところ、指数にして、従前地一億二八三〇万六七三九個に対し、換地一億四四四九万八六二一個(坪当たりでは、換地は従前地の約一・五倍の価値を有することとなった。)と決定された。すなわち、換地全体の価格が従前地全体の価格を上回るに至ったので、保留地を設定できたのである(法九六条二項)。なお、この点証人山本豊は、測量増地も考慮すると、従前地全体の価格が換地全体の価格を上回る旨証言し、それに沿う内容の甲第一九号証を作成しているが、それは従前地の評価に関して土地評価基準によった上で後記の比例清算方式による修正が加えられている(従前地全体の総価格には一・一一八が乗じられている。)ことを看過するものであるから、これを直ちに採用することはできない。

右保留地は、昭和三八年、三九年、四〇年に、それぞれ審議会の同意を得て、適正な価格で売却処分された。

(2) 二坪換地

被告は、未指定地を全て保留地にして売却すれば、代金が土地区画整理事業費に充当され、従前地所有者の利益にならないと判断したので、広島市の係員において、当時の監督行政庁であった建設省に出向いて指導を受ける等した結果、法九一条一項の増換地指定の規定を類推して、二坪換地を行うこととした。その内容は、施行地区内に散在する広島市所有の事業用地(換地を希望しない従前地所有者から買い上げ、減歩率緩和等事業施行上の必要に応じて処分する土地)の一部である一〇〇六・四四坪を約二坪ずつに分筆し、これらを法九一条一項の過小宅地として、前記未指定地のうち、仮換地指定又は保留地設定の対象外として残った一万八五一五・六六坪に対して増換地指定を行った上売却処分し、その代金(代金の決定は、評価員の意見を聴いて定められた当時の時価とする。)を特別清算金として従前地所有者(ただし、国、広島県、広島市その他公共的団体等を除く。)に、従前地の権利価格に按分する等して支払うというものであった。

なお、東部土地区画整理審議員の川本徳二が建設省都市局区画整理課長宛にした照会に対し、同課長は、二坪換地は当時の社会的背景その他の諸事情からやむを得ない措置であると考えられ、当然に違法視することはできない旨回答している。

この措置については、土地区画整理委員会の諮問を経て、「過小宅地並過小借地の取扱準則」を一部改正する等して行うものとし、具体的には、二坪換地を受ける者は、規則に定める施行地区内の土地所有者(ただし、国、広島県、広島市その他公共団体等を除く。)とし、広島市長は、右対象者が従前施行地区内で使用していた土地の場所、地積等と、未指定地の場所、地積等の関係を考慮した上、一筆毎に土地区画整理委員会(土地区画整理法施行後は土地区画整理審議会)の同意を得て増換地指定をなし、指定を受けた土地について順次売却処分を進め、売却通知を受けた者から仮清算金たる払い下げ代金を徴収した。

被告は、未指定地の売却利益(二坪換地の売却代金四億一〇六二万三四二六円のうち、従前地たる市有地の権利価額一三六五万円及び被告が買主に代わって支払った清算金額一億六〇一六万〇一六〇円を控除した残額二億三六八一万三二六六円)を特別交付金として、従前地所有者に按分交付した。

(五)  工事の進捗伏況

本件事業においては、昭和三〇年三月末日までには、街路工事がほぼ完成し、仮換地指定の八割が完了した(工事計画全体の八六パーセント)。

しかし、京橋川、猿猴川、元安川のそれぞれ沿岸一帯の公共施設である河岸緑地予定地に違法建築物が三七〇〇余あったので、その移転や除却の手続を要したため、工事完成に至ったわけではなかった。

前記諸事情の外、〈1〉事業施行区域が最終的には一七六万坪余と膨大であって、換地計画策定の対象となる権利関係について、非常に多くの権利変動があった、〈2〉清算金額算定のための清算単価の決定について、土地区画整理審議会における慎重な検討を行い、結論を得るまでに二年を要した、〈3〉昭和四一年四月一日からメートル法が実施され、従前坪数で表示された関係図書につき地積換算をしなければならなかった、〈4〉特別都市計画法等関係諸法令の改廃により、単一法令に依拠した一貫した手続により事業を進めることができなかった等の理由のため、被告が換地処分の法定手続を開始したのは昭和四三年からであった。

(六)  起業利益の発生

被告は、清算金額の決定に際して、本件事業における従前地の路線価と換地の路線価とを対比したところ、地積の面では相当減歩がなされているものの、換地全体の利用価値としては、従前地全体のそれを若干上回るに至ったとの結論に達した(その原因は、本件事業による起業利益の発生であると推測される。現に、前記(四)(1)の保留地設定に関して述べたとおり、昭和三二年におけるものではあるが、坪当たりの換地の価値は従前地の価値の一・五倍に相当するまでに至った。)。

(七)  清算金額の算定

(1) 基準時

被告は、清算金額算定の基準時を工事概成時とすることが妥当であると考えていたところ、前記(五)の工事進捗状況から、昭和三〇年三月末日の時点を工事概成時と判断し、右時点を清算金額算定の基準時と定め、清算金の額を算定することとした。

(2) 土地の評価方法

被告は、昭和三一年一月一一日、法六六条に基づいて本件事業の施行規程(乙第二号証)を定めた。右規程は、本件事業の基本的な事項を定めたものであるか、土地の評価については、従前地及び換地の各筆の評定価格は、評価員の意見を聴いて、その位置、地積、区画、土質、水利、利用状況、固定資産税の課税標準、環境等を斟酌して定めるものとし、清算金の額については、従前地の評定価格と換地の評定価格との差額を、換地処分に関して徴収又は交付すべき清算金の額とすることとしている。そして、被告は、従前地と換地の各評定価格の算定方法を具体的に定めるものとして、本件事業の土地評価基準(乙第五六号証)を作成した。

右基準によると、土地各筆の評定価格は全て指数をもって表すものとされ、換地の評定価格の算定は路線価式評価方法によるものとされている。一方、従前地の評定価格の算定方法については、現地換地の場合、従前地の評定価格は換地の評定価格と同価格になるように算定するのを原則とするが、換地交付の結果、徴収交付地積が生じている場合(前記換地地積と現実に交付された換地地積とが一致しない場合)は、当該地積を換地地積に換算してその評定価格を算定し、徴収の場合にあってはこれを換地の評定価格から減じ、交付の場合にあってはこれを換地の評定価格に加えたものをそれぞれ従前地の評定価格とするものとされた(土地評価基準四条)。また、飛換地の場合には、飛換地先で現地換地したものと仮定して、現地換地の場合の評定方法により従前地の評定価格を求め、その評定価格を、従前地の位置において現地換地をしたと仮定した場合の当該換地が接する道路の路線価と飛換地先の路線価との比(路線価比)で修正し、従前地の評定価格とする。さらに、従前地の位置で現地換地したと仮定した場合に、当該換地が接する道路の幅員と飛換地先の道路の幅員とが異なるときは、それぞれの換地奥行長一一間の場合の所要地積の比(減歩比)により、前記の方法により求めた従前地の評定価格をさらに修正するという方式により算定するものとされた(土地評価基準六条)。被告は、評価員の意見を聴き、右方法に従って、換地及び従前地の評価をなした。

(3) 共通減歩率の算定方法

被告は、普通地の共通減歩率を〇・三九として清算金額を決定し、原告らに対して本件処分をした。

この数値は、総減歩地積から総地先減歩地積、特別地減歩地積、過大宅地減歩地積、旧軍用地からの組入地積を控除した総普通地共通減歩地積を、総普通地宅地と旧軍用地からの組入地積で除したものである。

算式は以下のとおりである。

共通減歩率=(総減歩地積-総地先減歩地積-特別地減歩地積-過大宅地減歩地積-旧軍用地からの組入地積)÷(換地普通地地積+旧軍用地からの組入分)

=296,406.74÷769,063.69

=0.3854 → 0.39(小数点第3位以下四捨五入)

なお、前記認定のとおり、被告は、事業計画の縮小を余儀なくされたものの、計画を全面的に変更することはできないと判断したので、共通減歩地積を維持する以上は、共通減歩率の数値として当初の計画における数値を使う外ないと考え、普通地の共通減歩率である〇・三九をもって、施行地区内全体(特別地も含む。)の清算金額の算定を行うこととした。そして、未指定地の発生に伴う処理は、前記のとおり、二坪換地の方式により売却して得られた金銭を従前地所有者に特別交付金として按分交付することで済ませることにした。

(4) 比例清算方式の採用

被告は、従前地全体及び換地全体を前記の方法により評価した結果、従前地の総評価額は一億二八四一万一〇九八個、換地のそれは一億四三五八万〇九〇七個(昭和三〇年三月末当時では、一個当たり一二〇円)と算定された。すなわち、換地全体の価値は、従前地全体の価値を、両者の差額分だけ上回ることになったのである。そこで、被告は、両者の差額分を従前地所有者に公平に配分するため、後者を前者で除した一・一一八を比例比率と定め、前記(2)の方法によって算定した換地評価額と、同じく算定した従前地評価額に右一・一一八を乗じたものとの差額をもって、従前地所有者に対するそれぞれの清算金の額(換地評価額の値の方が大きいならば徴収、小さいならば交付)とすることとした。

(5) 清算金額の具体的な算定

被告は、前記の方法によって、原告らについて別表2記載のとおりの清算金額を算定して、原告らに対し、本件処分をなした。

2  以上認定の事実を前提に、被告のした本件処分に違法事由があるかどうかについて判断する。

(一)  従前地の評価方法(土地評価基準)の違法について

換地については、前記認定の路線価式評価方法によってこれを評価をなした被告の措置について、裁量逸脱の違法は認められない(原告らもこの点は争わない。)。

原告らは、従前地の評価について、被告の採用した土地評価基準は恣意的なものであり、本来は賃貸価格を基礎にこれを評価すべきであったと主張するので、これについて判断する。

(1) 面積式換地設計について

被告は、前記認定のとおり、

換地地積=(従前地地積+加算地積)-(地先減歩地積+共通減歩地積)

となるように換地設計をした。この方法のうち、旧道の幅員の一部を従前地の地積に加算する点については、旧道はこれに面する従前地の利用価値を相対的に高めていたのであるから、地積を基準に換地設計を行う際には、旧道の幅員のうち一定割合の部分を加算地積としてこれに面する従前地の地積に加算して従前地にかかる権利地積を計算することは合理的である。また、換地のうち新道の幅員の一部を換地の地積から控除する点については、新道も同様に、これに面する換地の利用価値を相対的に高めるのであるから、地積を基準に換地設計を行う際には、新道の幅員のうち一定割合の部分を地先減歩地積としてこれに面する換地地積から控除して換地の地積を計算することも合理的である。そして、公共施設の新設又は拡張のため要する地積については、換地全体の価値の上昇に寄与するものであり、共通減歩地積として従前地所有者に平等に負担させることも合理的である。

かかる換地設計の手法は他の土地区画整理事業においても採用されているものであり、前記1で認定した特殊事情の下で、大量の土地につき迅速かつ適正に換地設計を行わねばならないという事情も勘案すると、土地区画整理事業において、このような簡便かつ合理的な計算方法により換地地積の目安を設けることも許容されると解される。

(2) 土地評価基準について

そこで、以下、土地評価基準について検討する。

換地設計において換地の過渡し、不足渡しが生じることは不可避であり、照応、公平の原則に合致するように従前地所有者相互間の不均衡を是正するため、従前地所有者から徴収しあるいはこれに交付する清算金の額を合理的に算定しなければならない。本件においては、起業利益が発生し、相当の減歩にもかかわらず換地全体の路線価が従前地全体の路線価を上回るに至ったのであるから、従前地所有者が全体として享受した起業利益は、その負担した減歩地積に相当する損失を補填して余りあるものということができ、起業者としては、単に損失を補填するに止まらず、右の価値上昇部分に反映された起業利益が従前地所有者に合理的に配分されるように、清算金の徴収、交付をなすべきである。

その目的のために従前地の価格を評定するには、必ずしも個々の従前地の価格を賃貸価格その他の個別的手法によって評価することまで要請されるものではなく、前記の趣旨に沿う清算金の額を合理的に算定できるような統一された評定方法を採用すれば足りると解されるところ、被告の用いた土地評価基準は、道路への接続の有無等土地の価格に影響を及ぼす要因を地積に換算し、これを加減して従前地の地積を換地の地積に置き換えてその評価をするというものであり、この評定方法も合理性のある評定方法の一つというべきである。特に、本件のような場合、膨大な数の従前地について迅速に評定をする必要があるのに、個別に詳細な評価を行うとすれば、煩雑に過ぎ、多大な困難を伴うと予想されるから、かような合理性のある簡便な方法を使用することも許容されると言わねばならない。

なお、確かに、被告の採用した土地評価基準によれば、起業者にとっては無償で必要な公共用地を捻出できるものであるが、それは無制約に可能というわけではなく、土地区画整理事業により換地全体の価値が従前地全体の価値を下回らない限りにおいてのものである。本件事業の内容は前記1(一)のとおりであり、その結果なされた道路、公園等の公共施設の新設、拡張により、換地の利用価値が前記1(七)のとおり高まったことによって、従前地所有者は右事業による起業利益を享受したのであるから、土地の減歩を受け、しかも、土地収用の場合のような減歩地積に相当する補償金が得られないからといっても、決して、原告らが無益な減歩を受けたものではないと解されるから、直ちに財産権の侵害を受けたと非難するのは当たらない。

(3) 賃貸価格について

他方、「復興土地区画整理換地計算標準」 (昭和二二年三月一四日戦復発一一三号戦災復興院次長発知事宛通牒、甲第四号証)は通達に過ぎないものであり、また、これも必ず賃貸価格によらなければならないとまで定めるものではない。特に、広島市のそれは昭和三〇年当時の市街地の実態に必ずしも適応したものではなかった。

以上により、被告か清算金の算定において土地評価基準によって従前地の評価をしたことに裁量逸脱の違法はない。

(二)  清算金額算定の基準時の違法

原告らは、被告が清算金額算定の基準時を工事概成時としてこれを決定したことの違法を主張する。

施行地区内においては、本件土地区画整理事業の効果である起業利益も財産的損失も、厳密には、工事着手時から完了時までの間に段階的に発生し、従前地所有者毎に事情を異にする。しかし、従前地所有者毎の事情に適合した清算金額算定の基準時を定めるのは技術的に困難であるから、工事着手時から完了時までの間の合理的一時点を定めて算定する外ない。清算金の法的性質は、土地区画整理事業による起業利益の公平な配分を目的とする調整金という面と、従前地の価値以下の価値しかない換地が割り当てられた者に対する損失補償という面を併有するものと認められるところ、調整金の面からも、損失補償の面からも、大部分の仮換地について従前地同様の使用利益が開始された段階である工事概成時をもって、右基準時とするのが合理的である。その段階になれば、使用収益されている仮換地は通常そのまま換地となるので、土地区画整理事業の効果が事実上顕在化したと評価できるし、将来の起業利益や換地の財産的価値が予測できるので清算金額算定の上で不都合がないからである。

かえって、原告ら主張のように換地処分時をもって基準時とするならば、従前地の財産的価値が、時間の経過により、経済事情の変動等土地区画整理事業以外の要因によっても影響を受ける余地があるが、むしろ、事業による利益や損失の公平な分配を目的とする清算金額の算定においては、右のような諸要因による影響を除外するのが、原則として相当である。

本件のような大がかりな土地区画整理事業においては、換地設計に始まり、工事施工を経て換地処分に至るまで、相当程度の年月を要するものであり、法はそれを当然のこととして予定しているものと解される。その場合、時間の経過に伴う従前地所有者間の不均衡や従前地所有者の損失に対する考慮が全く不要であるとも断じ難いが、時間の経過に伴う影響に対する方策をどのように講ずるか(仮清算の方法によるかどうか等も含めて)は、事業の諸般の事情を考慮して決する外ないから、結局のところ事業施行者の合理的裁量に委ねられているとみるのが相当である。

本件では、被告の基準時に関する判断は基本的には正当であり、また、工事概成時から工事完了時までに一五年を要しているけれども、まずもって事業の完遂を急ぐ必要があったのであるから、仮清算の方法を採らなかった被告の措置を直ちに非難することはできない。なお、工事概成時を基準に算定した清算金額に工事概成時から換地処分時までの利息相当額を付加して現実の清算金額とすべきとする考えもあり得るが、原告らは敢えてその点について主張をしない(弁論の全趣旨によっても、そのような理由による本件処分の取消しは原告らの求めるところではないと認められる。)。その他、原告らの主張の中に、是認し難い著しい不均衡の放置というような、被告の合理的裁量の逸脱を疑わせる事由は存しない。

(三)  過大な減歩を基準に清算した違法

(1) 本件事業計画の変更にもかかわらず共通減歩率を変更しなかった違法

被告は、前記認定のとおり、事業計画の縮小にもかかわらず換地設計や仮換地指定を全面的にはやり直さなかったのであるが、広島の市街地は、原爆の投下により廃墟となった後、市民らの復興の努力の結果、仮換地上に建物が建つ等してきていたのであり、もし、原告らの主張するように、仮換地指定をやり直す等、本件事業計画を全面的に見直すとすれば、時日を要するのみならず、市民の手で折角建てられた建物の除却や移転が不可避となる等、社会的損失が著しく、むしろ、仮換地上の既存の権利関係・利用関係を覆すことは公共の利益に反すると言わざるを得ない。よって、被告が、右関係を尊重し、事業計画を変更して抜本的な仮換地指定の見直しを行うという措置をとらなかったことは裁量の逸脱とは認められない。

なお、被告が昭和二七年にした本件事業の計画変更に伴い、前記のとおり未指定地が発生したのに、一部で地先減歩地積を縮小する等しただけで、減歩率等を抜本的には是正しなかったのであるが、これは、当初の計画では発生するはずであった起業利益がそのとおりには発生しなかったことを意味するという外ない。そうすると、未指定地の発生により、原告らは本来享受すべき起業利益の一部を失うという不利益を受けたということになり、前記の土地評価基準の図式がそのまま妥当するかは疑問であるけれども、被告は、右不利益を、二坪換地による未指定地の売却代金を特別清算金として交付することにより補填しているのであるから、従前のままの土地評価基準を基礎に清算金額を計算したことについて被告に裁量を逸脱した違法があるということはできない(なお、二坪換地自体の適法性については後記(四)(3)のとおり)。

(2) 特別地を含めて共通減歩率を算定しなかった違法

特別地も、普通地と同様共通減歩地積による公共施設の拡張や新設により価値の上昇がもたらされるものであることからすれば、現実に減歩させるか否かにかかわらず、土地評価基準における共通減歩率の算定上は、特別地も共通減歩地積を負担したものとしてこれを算定すべきである。共通減歩率を普通地のみを基礎として算定すれば、自からその数値は大きいものとなるが、過大な減歩率による計算を行えば、前記の土地評価基準の下では、当然に、従前地の評定価格が低くなり、清算交付金の額は過小に、清算徴収金の額は過大になるという結果を招く。そうすると、被告の採用する土地評価基準において用いるべき共通減歩率は、普通地及び特別地を通じて、

(総従前地地積+総加算地積)-総地先減歩地積-旧軍用地からの組入分-総換地地積=総共通減歩地積(=総換地地積×共通減歩率)

となるような数値でなければならない。すなわち、共通減歩率は、以下の算式で求められる。

共通減歩率=(総従前地地積+総加算地積-総地先減歩地積-旧軍用地からの組入分-総換地地積)÷総換地地積

これによれば、徴収地積と交付地積がほぼ等しくなるところ、被告は、これらが等しくなくても良いとか、徴収地積が交付地積を上回ったのは昭和二七年の換地設計の変更のためである等とし、また、特別地についても普通地と同じ減歩率を基に換地地積の過渡しや不足渡しを判断し、清算金額を算定したので、普通地と特別地の間で不均衡はない旨主張する。しかし、面積式換地設計においては、徴収地積と交付地積とがほぼ等しくならなければ、不足渡地積や過渡地積の算定にも影響が及び、最終的に前記換地準則に基づく清算金の徴収額と交付額とが釣り合わなくなり(換地準則では差額清算によって清算金額を算定することになっていたはずである。)、適切な清算をなし得ないはずである。そして、〇・三九の値が求められた昭和二二年において既に徴収地積と交付地積との不一致が生じていると窺われる(例えば、昭和二二年時点での換地設計における普通地全体における交付地積の総合計と特別地全体における徴収地積の総合計においてかなりの不一致を生じている。)から、被告の反論を直ちに正当とすることはできない。

しかるところ、昭和二二年当初の換地設計においては、その内容は別表3記載のとおりであるから、あるべき共通減歩率を試算すると、

{(1,124,767.03+405,630.27)+(242,260.00+5,239.41-48,452.00)-(190,201.61+58,142.40)-(749,063.69+387,234.59)-20,000.00}

÷(749,063.69+387,234.59)

=0.2858 → 0.29 (小数点第三位以下四捨五入)

となる。

したがって、共通減歩率を〇・三九としたまま土地評価基準により従前地を評価するときは、そのままでは清算交付金の額を過小に、清算徴収金の額を過大に算定することになる。

しかし、前認定のとおり、被告は、比例清算方式を採用し、換地全体の価格を従前地全体の価格で除して得られた一・一一八という数値を比例比率と定め、従前地の評価額にこれを乗じたものを基準にして換地の評価額との過不足を判定しているのである。すなわち、被告は、比例清算方式によって従前地の評価額に比例比率を乗じた上で清算金額を算定することにより、起業利益の公平な分配を図ると同時に、従前地の過小評価による結果を修正し(この点の問題性を認識していたかどうかはともかく)、結果として原告らに不利益を生じないような結論を導いているとみられる。してみると、この点をもって、原告らにおいて本件処分の取消しを求むべき事由とはなり得ないものと解される。

(四)  本件換地処分自体の違法

原告らは、本件換地処分自体の違法を理由に本件処分の取消しを請求している。

これについては、被告が主張するように、換地処分を取り消すことなく清算金額決定処分を取り消しても、起業者は、再度、右換地処分に従って清算金額を決定せざるを得ないので、換地処分自体の違法を主張して清算金額決定処分のみの取消しを請求することはできないのではないかとの疑問もなくはないが、その点はさておき、後記のとおり、本件換地処分には原告らが主張する違法は存在しないので、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(1) 地先減歩地積の過大について

事業計画の縮小にもかかわらず換地設計や仮換地指定を全面的にはやり直さなかったことについては、前記(三)(1)のとおり、やむを得ないことであり、また、地先減歩については部分的には手直しをしているのであるから、被告の措置には裁量の逸脱は認められない。

(2) 保留地の設定及びその処分の適法性について

前記認定の事実によれば、換地全体及び従前地全体の評価の結果、換地全体の価格が従前地全体の価格を上回るのであるから、保留地を設定できるのであり、未指定地の一部を保留地として設定し、これを売却処分した被告の措置に裁量の逸脱は認められない。

(3) 二坪換地について

前記未指定地を全て保留地にすると、売却代金は事業の施行に伴う費用に充当されてしまうから、従前地所有者は、事業計画縮小に伴って未指定地が発生し、起業利益が当初の予定どおりには生じないにもかかわらず、何らの土地も金銭補償も得られず、減歩だけが据え置かれるという、望ましくない結果が生じる。

そこで、従前地所有者に何らかの方法で未指定地の発生による損失を補填する方法が模索されるべきところ、被告のなしたいわゆる二坪換地(事実上は、未指定地の売却及び売却代金の従前地所有者への分配)は、前記認定の諸般の事情からは、右損失を補填する方法としてはやむを得ないものであって、裁量の逸脱は認められないというべきである。

確かに、土地区画整理事業は、補償による土地の収用でなく、あくまで健全な市街地形成のための土地の再分配であるから、原則として、土地の代わりに金銭での補償がなされればそれでよいというものではない。また、法九一条一項は、災害妨止や公衆衛生のため必要がある場合に、例外的に増換地を認めたものであって、人為的な大量の過小宅地の作出や地積にして数十倍もの増歩を予定しているとは到底考えられない。しかし、全面的な換地設計の変更をしないで従前地の所有者全体に平等に仮換地を指定しようとすれば、僅かな面積の、しかも飛び地の宅地が多数作出され、土地の有効利用の見地からは問題であり、土地区画整理事業の目的に反することになる。二坪換地及び未指定地の売却利益(二坪換地の売却代金四億一〇六二万三四二六円のうち、従前地たる市有地の権利価額一三六五万円及び被告が買主に代わって支払った清算金額一億六〇一六万〇一六〇円を控除した残額二億三六八一万三二六六円)を特別交付金として、従前地所有者に按分交付した被告の措置は、土地区画整理事業の目的に沿いつつ、全体的に、照応、公平の原則を実現するための措置であったというべきである。

したがって、被告のした二坪換地を違法とすることはできないというべきである。

3  以上のとおり、本件処分に、原告らが主張する違法はないと解される。

四  結語

以上のとおり、原告らの請求のうち、別紙一当事者目録記載の原告番号2及び4の原告らの各清算金額決定処分の取消請求に係る訴え並びに原告番号3の原告の別表1記載の従前地番号二の1(一)ないし(三)の従前地に係る換地処分、原告番号20ないし23の原告らの従前地番号九の2の従前地に係る換地処分及び原告番号28の原告の従前地番号一四の2及び同一四の3の従前地のうち三谷鋼業株式会社に対する譲渡部分に係る換地処分に伴ってされた各清算金額決定処分の取消請求に係る訴え並びに原告らの被告に対する別紙二請求金額目録記載の各金員の支払請求に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、その余についてはいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤修市 裁判官 白井幸夫 福田修久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例